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Opinion

情動的共感と認知的共感の違い

ヒトの進化についてこの1年間勉強してきたので、アメリカの大統領選挙の動向をテレビで見ていても、ついついヒトの進化と関連づけて考えてしまいます。

ヒトとチンパンジーが共通祖先から枝分かれしたのがおよそ700万年前、現生人類(ホモ・サピエンス)が出現したのがおよそ20万年前のことですが、ヒトは進化史のほとんどの期間、狩猟採集生活をしてきました。たった独りでは狩猟採集はできないので、ヒトは小さな集団を作って共同作業をするように進化しました。集団は、毎日顔を合わすのが20〜50人、毎日ではないけれど緊密な関係を持っているのが150人くらいという小さな規模です。このような小さな集団内での生活が何百万年も続いた結果、ヒトは集団内のメンバーに対しては寛容で利他的に行動する一方、集団外のメンバーに対しては排他的で攻撃的に行動するようになりました。

また、「共感」という心の動きに着目すると、最近の脳の研究の結果、2種類の共感があることが分かっています。その一つが「情動的共感」です。ヒトでも動物でも、他者が痛がっているのを目撃すると自分も痛いと感じる(=痛みの伝染)が起きることがあります。この時の脳の状態をfMRIで観察すると、痛がっている本人もそれを見ている人も、「痛み回路」と呼ばれる脳内の同じ部位(前帯状皮質や前島など)が活性化しています。このような種類の共感は反射的で、「情動的共感」と呼ばれています。そして、このような共感が起きる範囲は血縁者や集団内の仲間の間であって、集団外の他者に対しては起きにくいことが分かっています。

一方、身体的な痛みではなく、社会的痛み(一人だけ除け者にされる場合など)を受けている人と、それを見ている他者の場合は、脳が活性化する部位が変わってきます。社会的痛みを受けている本人は、身体的痛みと同様に脳の「痛み回路」が活性化しますが、それを見ている他者の脳では、大脳新皮質のうち、側頭前頂接合部、前頭前皮質内部、楔前部などの「メンタライジング・ネットワーク」と呼ばれる部位が活性化します。これらは、自他の分離を前提に、相手の心的状態を推論する時に反応する部位です。このような共感は「認知的共感」と呼ばれ、他の動物にはない、ヒトに固有のものです。そして、内集団を超えた利他性を発揮するための重要な基盤であるとされています。

ずいぶん前置きが長くなってしまいましたが、我々は、アメリカ大統領選挙に限らず、「情動的共感」に訴えるアプローチを多用し過ぎているのではないでしょうか。選挙集会に集まった支援者たちの熱狂ぶりは、まさに「情動的共感」そのものですが、この種類の共感が集団の枠を超えて広がることはありません。「団結」は、あくまでも共和党内や民主党内の団結であり、ますます国民の分断を深刻化させる可能性が高いです。

そもそも、約1万2000年前にヒトが集落に定住し、為政者階級が形成されて以来、「王」と呼ばれる人たちは、「情動的共感」に訴えることで、社会の結束を強めてきました。宗教の祭祀も、一神教も、外敵も、「情動的共感」を高めるための仕掛けだったのだと思います。

今、世界中で起きているたくさんの争いを止められるのは「認知的共感」だと思います。このクールな共感の基盤を、ヒトはしっかりと進化させてきたのですから。

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