利他性と共感の進化について

この記事この記事の続報です。前の記事はヒトの進化が戦争を引き起こしてきた側面について書いてきましたが、今度は、ヒトが進化によって獲得した社会性の側面について書きます。言うまでもなく、ヒトは集団の中で生きる社会的な生き物です。前回同様に、約6ヶ月の読書で分かった事柄を箇条書きにしてみます。

  1. 生物は自分の遺伝子をできるだけたくさん次の世代に残そうと行動するが、血縁者が生存と繁殖に成功すれば同じ遺伝子が次世代に受け継がれるので、血縁者間には利他行動や協力行動が生まれる(例:働き蜂は自らは繁殖しないが、同じ遺伝子を持つ女王蜂の繁殖のために献身的に働く)
  2. 非血縁者間であっても、他者のために行なった利他行動に対して、後日に相手がお返しをしてくれれば、互いの適応度が上がるので、このような利他行動は進化する【直接互恵性】
  3. 協力の利益だけ得てコストを支払わない(つまりいちばん得をする)「フリーライダー」が存在する場合に自然淘汰が働くと、フリーライダー的行動をコードする遺伝子が集団内に広まってしまうので、直接互恵性はこの集団からなくなってしまう。
  4. 直接互恵性を維持するには「フリーライダー」を排除する必要があるので、ヒトの心は裏切り者の存在を敏感に検知するように進化し、その一方で、ヒトは常に他人の目を気にするようになった
  5. 直接互恵性が二者間のやり取りであるのに対して、与え手と受け手が異なる場合においても、利他行動をした結果得られる「よい評判」が広まると、他者の協力が得られやすくなって適応度が高まるので、このような利他行動が進化する【間接互恵性】
  6. 間接互恵性はヒト以外の動物ではほとんど観察されず、ヒトの道徳感情の起源の一つだと言われている
  7. 古典派経済学の理論は「ヒトはもっぱら経済的合理性のみに基づいて個人主義的に行動する」という「経済人(ホモ・エコノミクス)」の人間像を前提としてきたが、実際に実験室に人を集めて「最後通牒ゲーム」と呼ばれる実験を行うと、経済的合理性とは合致しない(損をしても公平性を重視する)行動が多数観察され、「経済人」の人間像はヒトの本質を正しく言い表してはいない
  8. ヒトに限らずさまざまな動物種において「痛い」といったような情動経験が伝染することがあるが、これにはオキシトシンと呼ばれるホルモンが関与しており、オキシトシンが利他性を促進すると言われている
  9. 情動伝染(情動的共感)の起きる自然な境界は、仲間や血縁者(=内集団)である
  10. 進化のほとんどの期間において狩猟採集生活をおこなってきたヒトは内集団の中でうまく生きるように進化してきたので、モラルの基準が違う外集団とは衝突する傾向にあり、衝突を避けるには共通基盤を見出す努力が必要である
  11. ヒトには、自分の身体を媒体に相手の動作や表情を真似ることで、相手の意図や感情を理解しようとするメカニズム(身体化された認知)が備わっており、「共感性」の原初的なものと位置づけられている
  12. 高度なメンタライジング能力によってヒトは他者の心理状況を推論することができ、これによって、情動的共感とは違うもう一つの共感ルートである認知的共感を構成することができる。認知的共感は、内集団を超える利他性の発揮に本質的な役割を担っている

(「自由と責任の進化について」に続く)

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