「高みから道徳を説く神」について

進化心理学の分野の本を読んでいると、「そうだったのか!」と気づかされることがたくさんあります。そのなかでも、ロビン・ダンバーの『宗教の起源』は、宗教(特に一神教)が成立した過程やその時期がとても具体的に示されていて興味深いです。

【ステップ1】ヒトが現生人類(ホモ・サピエンス)に進化し、脳のメンタライジング・ネットワークが発達するにつれて、霊的存在を信仰する心の動きが小さな集団内で共有されて、初期の宗教(アニミズムやシャーマニズム)が生まれました。

【ステップ2】その後ヒトはずっと小規模な集団で狩猟採集生活をしていたのですが、今から1万年ほど前に、侵略者に対する防御の目的から大規模な集落で暮らすようになり(農耕が始まったから大きな集落ができたのではないのです)、非血縁者を含む大きな集団で暮らすストレスに対処するために、宗教の儀式が複雑化し、専門の聖職者も現れ、教義宗教が生まれました。ただ、この頃はまだヒトは多くの神々を信仰しており、神々の側も人間の行動に細かく干渉して道徳を説くようなことはありませんでした。

【ステップ3】「高みから道徳を説く神(=一神教の神)」が登場するのは、さらにずっと後のことです。枢軸時代とも呼ばれている紀元前千年紀(今から3000年ほど前)に、社会と政治がより一層複雑化し、都市の人口が100万人規模に増大するなかで、人々の心を一つにして社会を安定させるために(あるいは外敵に勝つために)、「高みから道徳を説く神」の信仰が生まれたのだと、ロビン・ダンバーは論じています。

(次回「『戦争』に至る進化の道」に続く)

古代オリエントの年表
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