【教訓】ボブ・ディランに対するのスウェーデン・アカデミーのベール・ベストベリー氏の発言について

『今年のノーベル文学賞に選ばれた米シンガー・ソングライターのボブ・ディラン氏が沈黙を続けていることに対し、選考主体のスウェーデン・アカデミーのメンバーが21日、スウェーデン公共放送SVTのインタビューで「無礼かつ傲慢だ」と強く批判した』という内容の毎日新聞の記事(→こちら)をFacebookで見てカチンときたものだから、私はこの記事をシェアして、『この選考委員こそ「無礼かつ傲慢」。直ちに謝罪すべきである』とコメントしました。

ところが後になって、この言葉には後半があることが分かりました。朝日新聞の記事によると『「無礼で傲慢だ。でもそれが彼ってものだ」と苦言を呈した』が本当らしいのです(→こちら)。そうなると全然ニュアンスが違ってきます。「ああ、マスコミが書いた二次情報を鵜呑みにして、間違ったコメントをしてしまった」と私は大いに反省し、もうマスコミの記事をシェアしてコメントするのはやめようと思いました。


ただ、その一方で、ほんとうはどんな内容の発言だったのかもっと詳しく知りたくなりました。この発言はスウェーデン公共放送STVのインタビューに対して、スウェーデン・アカデミーのベール・ベストベリー氏が答えたもので、STVのサイトにも載っています(→こちら)。

下が問題のやりとりです(スウェーデン語)。

Vad tänker du om att han inte säger något?
– Nä, vad ska man tänka? Man kan ju säga att det är oartigt och arrogant. Han är den han är.

返答の一部をNEW YORK POSTが英訳しているので参考になります。

One can say that it is impolite and arrogant. He is who he is.

原文がスウェーデン語なのでよくわかりませんが、たぶん意味はこんな感じではないかと思います。

彼が何も言わないことをどう思いますか?
ーみんながどう思うかということですか?。無礼で傲慢な振る舞いだというべきなんでしょうね。それが彼ってものです。

少なくとも主語はベストベリー氏本人ではなく「man」なので、「一般的な見方をすれば無礼で傲慢だと言えるだろうね」というようなニュアンスになります。これは言葉を選んだかなり慎重な表現だと思います。「Han är den han är.」の訳し方が難しいですが、まあ朝日新聞に載っているように「それが彼ってものだ」でいいのではないかと思います。【スウェーデン語に詳しい方が見て間違っているようだったら、ぜひ指摘してください。】


また、DN(ダーゲンス・ニュヘテル)というスウェーデンの新聞の記事(→こちら)によると、ベール・ベストベリー氏自身も発言の真意についてこうコメントしているようです。このサイトが訳を載せてくれています。

Det var säkert fem dagar sedan jag fick frågan ”Om Dylan inte hör av sig på många många veckor, hur skulle du då betrakta hans beteende?”. Då sade jag att ”Då måste jag nog säga att det vore oartigt och arrogant”. Adjektiven jag nämnde är inget att bry sig om, Dylan står både över och under allt sådant,

正確には5日前のことだったけど、私はこう聞かれたんだ。
「もしこのままディランが長い長い間何も反応しないとして、そういった彼の振る舞いについてどう思われますか?」
それで私はこう答えたんだ。
「そのとき、私は無礼で傲慢な振る舞いだというべきなんだろうね」
私はこのコメントで、特に(彼の振る舞いは)困っていないということを伝えたかったんだ。それ以上でもそれ以下でもないよ。

– Vi var medvetna om att han kan vara besvärlig och att han inte gillar framträdanden när han inte står ensam på scenen, så vi räknade kanske med att det skulle hända någonting. Men jag tror ingen av oss räknade med att han skulle hålla sig absolut tyst, säger Per Wästberg.
Per Wästberg vill inte spekulera kring vad som ligger bakom pristagarens tystnad.

「我々は、ディランが気難しく、一人でステージの上に立つことを好まないことを知っていたし、恐らく何かがおこるだろうということも計算していた。けれども、ここまで全くの沈黙を貫くということは予想できなかったよ」
Per Wästbergはディランの沈黙の背景について推測することはしたくないと言った。


今回の出来事の教訓は、「マスコミ等が報道する二次情報は、編集の過程で事実関係やニュアンスが変わってしまっている畏れがあるので、鵜呑みにはできない」「それを元に自分が何らかの発言をする場合は、できる限り一次情報に近いところまで遡り、前後の文脈も確認したうえで行ったほうがいい」ということです。

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