「写真とは何か」 第1話 あれはいつからだろう

本稿はこのサイトを開設した1997年に、毎週一話ずつ順次アップしていったものです。

写真1

 写真を撮り始めたのはいつからだろう。数人の友達と関西本線の亀山機関区に行き、初めてファインダーを通して見える世界を体験した。小学校5年生のときだ。父親から借りた二眼レフを覗くと、あらゆるものが現実とは対称に見えた。フィルムの巻き上げとシャッターが連動していないので、二重写しの失敗もしでかした。撮り終えたフィルムをカメラ屋に持って行ったとき、そしてそれが出来上がってきたとき、あの時の興奮は今でも忘れない。

 そういえば、初めてフィルムを現像したときのあの甘美な緊張感も忘れられない。今でも定着が終わってタンクのふたを開けるとき、なかなか蓋が開かないときには(私が使っているのはステンレスタンク)、同じような感覚を味わう。こういったプロセスのひとつひとつに、写真を止められない秘密があるのかもしれない。
 それでも、大学を卒業し会社に勤めてから、ずっと長い間写真を撮ることはなかった。そんな余裕すらなかった。ただ流されるように毎日を過ごしていた。
 あれはいつからだろう。今、私の手の中にはカメラがある。再びカメラのファインダーの中の世界を垣間見て、再び現像中の甘美な緊張感を味わっている。そして今、確かにしっかりと地に足がついた自分を感じている。
 再び写真を撮り始めたら、昔私の頭を離れなかったあるテーマが、また私の頭の中に居座るようになった。写真を撮るということはどういうことなのか?それは、撮影者の意志とは関係なく、まったく新しい世界を創り出していることではないのか?この難しいテーマをこれから考えていきたい。

関連記事