「写真とは何か」 第16話 時を止める

 写真に写っている建物が取り壊されて、街の様子がすっかり変わってしまっていることがある。写真は、何十分の一秒、何百分の一秒の瞬間を銀の粒子に固定する。そして、それがきちんと保存される限り、その映像は百年でも存在し続ける。たとえ、写し出された街並みがすっかり変わってしまっても……。

 第4話で は写真を見るときの二つのインパクトについて書いた。「意味よりも先にやってくる生の感覚」と「人間の解釈による意味」である。時間を超えて残る写真の映像は、この二つの可能性を長く留保し続ける。そしてこの文章では、第一の「意味よりも先にやってくる生の感覚」の意義を強調してきた。優れた作品は、このインパクトを後世の無数の鑑賞者たちに繰り返し繰り返し与え続ける。

 ただ、時間の経過とともに、写真の持つ「意味」も変化していくことに注意しなければならない。アッジェの写真に写しだされた20世紀初頭のパリの街並みは、当時を残すものとして、その「記録性」ゆえに大きな意味を持つ。アボット女史が写したアッジェのポートレートは、私たちに本当なら知るよしもないアッジェの風貌を伝えてくれる。

 普段、私たちはあまり深く考えずにシャッターを切り、「時を止める」というその行為の重大さには気づいていない。たとえそれが、この世界のごく限られた断片にすぎないにしても……。

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