「写真とは何か」 第2話 洞窟の中の懐中電灯

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 私としては早く話をアッジェに持っていきたいのだけれど、それでは話がいきなり佳境に入ってしまう。じっと我慢して、次回以降ににつながるようなことを書こう。

 人間の知覚っていったいなんだろう。ものを認識するってどういうことなのだろう。いつも考え込んでしまう。一つ思い浮かぶのは、真っ暗な洞窟のなかを懐中電灯1本を頼りにさまよっているイメージだ。細い一筋の光によって照らし出された洞窟の壁だけが、われわれが知ることができる現実である。ちょう ど、目隠しをされた人が象の足に触っても、それが象という動物であると認識できないように、われわれの認識力はこの世の断片を垣間見ることができるにすぎない。

 認識のための道具は、別に懐中電灯に限るわけではない。杖だって頼りになる。ボッと周囲が明るくなるような照明弾を打つこともできるし、超音波探知器のような文明の利器を使うことだってできる。それぞれの方法によって得られる情報の多寡や精度が違うけれど、ここで重要なことは、いずれの方法においても生の現実を何かの切り口で切り取ってきているにすぎないことである。もっと言えば、それは生の現実とは別のものなのである。

 正確に本当の現実を把握したいという目的からすれば、これは非常に心もとないことである。しかし、もうお気づきのように、これによって別の楽しみが誕生する。新しい世界を出現させる魔法の箱、それはカメラである。

 

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