「写真とは何か」 第15話 広角は標準レンズ?

 このホームページに掲載されている写真のほとんどは、24mmか28mmの広角レンズで撮影されている。かといって、標準レンズや望遠レンズは全然使わないというわけではない。ただ、自分の作品を撮ろうとするときには、必ず広角レンズを使う。

広角レンズを使い始めたのは大学1年の頃からである。写真部の先輩から、「人間の視角に一番近いのは28mmだ」と言われたのがきっかけだ。確かに、一点を注視するときは別として、ぼーっとあたりを眺めている時の人間の視角はかなり広角である。実際に自分が28mmで写した写真を見てみると、撮影時に感じたパースペクティブに極めて近い。そうやって、28mmを使い始めると、いつのまにか、他のレンズではちゃんとした写真を写すことができなくなってしまった。

 実は、このことについて、今までの14話のような調子で、こうだと断定的に言い切れるだけの根拠が思い当たらない。しかし、ひとつだけ思い当たることがある。もし、何がなんでも新しい世界を作り出そうというのなら、超望遠レンズや魚眼レンズや、あるいは顕微鏡を使えばいい。それらのレンズによって 得られる映像そのものが、すでに新しい世界である。しかし、それは私の追い求めるものではない。日常的な見慣れた事物のなかに突然現れるまったく別の感覚、それこそが私が「新しい世界」と呼ぶものである。 第13話で書いた「創発の起きる予感」は、まさにこのことを言っているのである。

 肉眼の視野により近いレンズによって切り取られる日常的な視覚。それを生み出すことができるレンズだから、私は広角レンズを多用するようになったのだと、自分では思っている。

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